フェリーに乗った日には必ず大きな満足を感じました。

フェリーには切ない思い出があります。忘れようとしても忘れられないかつての恋人とのひと時を過ごした思い出だからです。フェリーに乗ることは、楽しみなことでした。海の青さ、気持ち良い風、少しずつ動く景色、それらも私の胸を打ちました。ユリカモメたちにちぎったパンを投げ、手が届きそうな所を飛ぶユリカモメたちは愛らしく、美しかったことを思い出します。フェリーのデッキに彼女と手すりにもたれて見る海は、格別なものでした。寒い時期でない時はずっとデッキにいました。学生でしたので車は持っていませんでしたから、フェリーを降りると、バスにのって目的地を目指しました。美術館です。帰りも一緒にフェリーに乗りました。彼女のつけたフレグランスは強くなく、薄くなく、私の胸を満たしました。帰りのフェリーが最終便だった時、遠くに対岸の明かりが見えました。ロマンチックなその光は、私たちの絆を強くしてくれたと今も思っています。夜の海はいつも怖かったのですが、フェリーにのる日はそうではなかったのです。すべてが美しく見えました。一つだけ不満がありました。それはフェリーの燃料を燃やす臭いが鼻をつくことがあったのです。仕方のない事だとは思っていたのですが、風向き次第ではむせるほどでした。味のある音が聞けました。汽笛の音です。おなかに響くような音でしたがそれが楽しくて彼女と笑い合ったものです。フェリーは早くは進みません。しかしそれがいいのです。ゆっくりとゆっくりと進んでいくその感じが好きでした。今でも運航しているだろうかと、彼女の面影とともに思い浮かべるのです。http://www.ohiobiz.co/jyunyu-kouso.html